自筆証書遺言の書き方(形式面・サンプル有)―相続法改正対応―

遺言に関する文献やWebページを見ると、公証人が関与するため方式違反や内容違反により遺言が無効となる可能性が少なく、かつ、遺言の所在がはっきりすることなどの理由から「公正証書遺言」の利用を勧めることが多いです。

しかし、公正証書遺言では、中立的な立場にある証人2人の確保や原則として平日の勤務時間中に公証役場に出向かなければならないことから、若干ハードルが高いと感じられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

改正相続法においては、自筆証書遺言についても法務局での外観確認や保管制度により、従前と比べて自筆証書遺言が活用しやすくなりました。

そこで、本コラムにおいては、自筆証書遺言の書き方(形式面)について弁護士が解説します。

本文の自書

改正相続法によって、財産目録等についてはパソコンなどでの作成が可能(ただし署名部は自書)になりましたが、本文は自書が必要であるとされています。

これは、自書であれば筆跡によって本人が欠いたものであることが認定でき、それによって遺言が故人の真意に基づくものと推認できるためです。

そのため、たとえ本人の筆記能力に問題がある場合であっても代筆は認められていません。
手の震えなどによって判別できる文字をそもそも書けそうにない場合には、公正証書遺言など他の遺言方式の検討をする必要があります。

日付の記載

遺言は、作成時期の遺言能力の有無や複数の遺言書が存在する場合の優先関係などの関係で成立時期が重要です。
そのため、遺言の成立時期を明確にするために自筆証書遺言においては、日付の記載が必須とされています。

このように、日付は遺言の成立時期を明確にするために要求されるものですので、「1月吉日」のように特定の日を表示したとみることができない記載は無効です。

「80歳の誕生日」などの記載方法であれば日付の特定ができますので遺言として有効と判断される可能性が高いですが、遺言が無効とされるリスクを避けるために可能であれば「●●年●月●日」という表記をすることが望ましいです。
なお、和暦・西暦は問いません。

氏名の記載

遺言の作成者を明らかにするために自筆証書遺言においては、氏名の記載が必須とされています。

氏名は、必ずしも戸籍上の氏名でなくともよく、遺言者が誰であるのか疑いの入れない程度の表示があれば足りるとされていますので、ペンネーム等の通称表記でも問題ありません。
また、「渡邊」が「渡辺」となっていた場合など漢字に誤りがあっても即時に無効となることはありません。

ただし、日付と同様に、後日氏名の記載が不十分であるとして遺言が無効とされるリスクを避けるために可能であれば戸籍上の表記をすることが望ましいです。

印鑑

日本においては重要文書には押印をする文化があることから、自筆証書遺言への押印が必須とされています(例外的に押印を欠く遺言書が有効とされた裁判例も存在しますが、遺言者が印鑑を所持していない外国人である場合など極めて例外的とお考えいただいて問題ありません。)。

遺言の押印に用いる印鑑は必ずしも実印でなくとも問題なく、指印や認印でも有効とされています。
もっとも、指印が本人のものであるのか否かや真に本人が押印したのか問題となる虞がありますので、可能であれば実印で押印をすることが望ましいです。

また、遺言書が複数枚に渡る場合、契印することは民法上特に要求されておりませんが、無用な争いを避けるために契印しておくことを推奨いたします。

「相続させる」「遺贈する」の違い

日付や氏名等と異なり必須ではないですが、遺言により財産を受け取る相手が法定相続人である場合には、「相続させる」という文言が望ましいです。

よくトラブルになる例としては、
「もしものことがあった場合、妻に『一切を任せる』」
「長男に、預貯金を『贈与する』」「あげる」「与える」「渡す」
との記載が挙げられます。

「一切を任せる」との記載の場合、その文言のみからは財産のすべてを譲り渡すといういみであるのか、管理を任せるという意味であるのか不明確です。
そのため、「一切を任せる」との解釈を巡って争いとなる虞があります。

また、「与える」「あげる」「贈与する」「渡す」という記載の場合、「相続」ではなく「遺贈」と判断されトラブルになったケースが散見されます。
「相続」と「遺贈」はいずれも遺言者の死をきっかけにして財産を移転させるものであるため、多くの方は「相続」と「遺贈」について深く考えることなく記載されているとおもいますが、これらの制度は似て非なるものです。

例えば、「遺贈」と判断された場合には、不動産登記手続きにおいて受贈者単独での登記が認められず法定相続人全員の協力が求められることがあります。
その場合、財産を受け取れない他の法定相続人が受贈者に対して必要な協力をせず、いつまでたっても登記が移転できないなどのトラブルになる場合があります。

他方で、「相続」の場合には、他の相続人の協力なく単独での登記申請が可能になるなど一般に「遺贈」よりも強い効力が認められています。

そのため、法定相続人に対して遺産を引き継がせたい場合には、「遺贈する」ではなく「相続させる」との記載にしておくことが望ましいと考えます。

その他

その他、誤解されがちなこととしては、自筆証書遺言に封をする必要はありません。
また、自筆証書遺言の要旨は何でも構いませんのでメモ用紙などでも問題ありません。

自筆証書遺言のサンプル

遺言書本文(全て自書)

別紙目録(署名部分以外は自書でなくても良い。)

おわりに

本コラムでは、自筆証書遺言の形式面を中心に解説いたしました。
相続法改正によって、今後自筆証書遺言の利用者は増加することが予想されます。

自筆証書遺言の実質的な内容については、遺留分侵害額請求や配偶者居住権など近時の法改正を踏まえたうえでの記載が必要です。

相続争いを回避するために作成した遺言を巡って無用な争いを起こさないために、自筆証書遺言の書き方についてお悩みの方やご不安な方は、お気軽に弁護士にご相談ください。

この記事を書いた人

弁護士 西川雄介

平成23年弁護士登録:司法試験(口述試験)3位通過
平成23年から平成26年まで長島・大野・常松法律事務所にて勤務し、大手上場企業や国外企業などを依頼者として企業法務・予防法務に注力しました。
その後、個人ないし中小企業の支援を行うべく弁護士法人佐野総合へ転職し、近年は遺産相続・交通事故トラブルや中小企業からの顧問対応等の取扱いが増えております。
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